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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)8号 判決

原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

1 原告の主張1について

原告は、本願発明がその構成要件とする「前変調によつて作動する装置に使用されるフイルタとして、屈曲振動子と縦結合子を使用した電気機械フイルタを使用し、その周波数帯域を基本群の下側に定めた」との技術的思想は、各引用例に開示されていない、と主張する。

そこで、成立に争いのない甲第二号証の一・二(本願発明の明細書)、第五号証(手続補正書)、第七号証(手続補正書)、第一〇号証の一ないし三(第三引用例)、第一二号証の一ないし三(第一引用例)、第一三号証(手続補正書)及び弁論の全趣旨を総合すると、つぎのとおり認められる。

(一) 第三引用例には、その「多通話路伝送方式と群変調」の項に、「このように周波数を並べるには、………それぞれ6、9、12Kcの搬送波をつくり、これを音声でAMし帯域フイルタ(MBF)で所要の片側帯波を選び出したものをただ加え合せてやればよく、」(甲第一〇号証の二の一五一頁一四行ないし一六行)と記載されているから、これによれば、複数個の音声信号でそれぞれ周波数の異なる搬送波を振幅変調(本願発明にいう「前変調」に相当する。)し、変調された出力を帯域フイルタで濾波して所要の片側帯波を選び出し、これらを多重して伝送することが開示されているといえる。

また、このようにしてできた一群の多重信号で所定の搬送波を一括して群変調して基本群を作る場合の具体例として、「い型の高周裸搬の送り周波数を例にとると、第4・17図い型の(6、9、12Kc)のように周波数を各CHごとに並べておき、一方、27Kcという群変調用搬送周波数をつくり27Kcで(6、9、12Kc)なる周波数を一括して変調する。すると、27Kcの上部と下部に第4・18図のような側帯波が出るから、その上部側帯波だけをのようなフイルタで取り出す。」(同一五一頁二四行ないし一五二頁三行)と記載され、同様に、六個の音声信号をそれぞれ10Kcで変調し、その上部または下部側帯波をとり出して三つの群を構成し、その各群をそれぞれ95、101、107Kcの搬送波で群変調して、これらを82Kcないし100回の周波数帯域に並べた例(同一五二頁第4・20図、本文一七行ないし二六行)、さらには、一二個の音声信号を12、16あるいは20Kcで変調し、その上部側帯波をとり出して12ないし24Kcの周波数帯域からなる四つの群を構成し、その各群をそれぞれ96、108、120及び132Kcの搬送波で群変調して、これらを72Kcないし120Kcの周波数帯域に並べた例(同一五二頁第4・21図)も記載されている。

したがつて、第三引用例には、「前変調によつて作動する装置に使用されるフイルタの周波数帯域を基本群の下側に定めたこと」が示されているということができる。

もつとも、第三引用例には、その帯域フイルタとして、電気機械フイルタを使用することについては直接記載されていないが、かかるフイルタとして、公知のフイルタの中から、本願発明のように、電気機械フイルタを用いることは、単なる選択の問題であつて、当業者において適宜実施できることである。

しかも、第一引用例には、「低周波メカニカルフイルタ」に関する「緒言」として、「周波数の低い、たとえば、音声周波数から数10Kcに及ぶ周波数範囲を対象とした。」(甲第一二号証の二の一三二頁左欄一四行ないし末行)、「周波数分割方式の搬送装置においては、音声信号、その他から伝送信号を構成するため、低周波から高周波まで、非常に広い周波数範囲に亘つて、各種の濾波器が使用されているが、これらの濾波器も低価格化、高性能化の必要があることは論をまたない。」(同一三二頁右欄六行ないし一一行)、「われわれは、このようにして、低周波MFの可能性を確かめ、搬送装置用としての要求を満たすための設計条件、諸安定度の調査を進めて、狭帯域から比較的広帯域のものまで、選択特性のすぐれた、小形、高安定の各種低周波MFの実用化に成功した。これらの低周波MFは、現在、各種搬送装置に適用され、装置の小形化、高性能化をさらに一歩推進せしめようとしている。」(同一三三頁右欄五行ないし一二行)と記載されているから、そこには、複数個の音声信号をそれぞれ周波数の異なる搬送波で変調するようにした、いわゆる周波数分割方式の搬送装置において、その変調された出力を濾波するフイルタ(本願発明でいう「前変調によつて作動する装置に使用されるフイルタ」に相当する。)として、低周波MF、すなわち、低周波帯域で用いる電気機械フイルタを使用することが示されているということができる。

なお、第一引用例には、たとえば「数100C/S~10数Kcの低周波域」(同一三四頁右欄本文一行、二行)と記載されているように、本願発明の明細書が例示する「60Kcないし108Kcの下側」(甲第二号証の二添付第二図)に相当する低周波領域を有する電気機械フイルタが示されていることが明らかである。

(二) 第一引用例には、前記認定のとおり、本願発明と同等の周波数帯域を有するフイルタとして電気機械フイルタを用いることが開示されているが、さらに、その主たる振動子として、「屈曲振動子が最適といえる。」(甲第一二号証の二の一三四頁右欄本文六行)として、本願発明と同様に屈曲振動子を用いることが開示されている。そして、これを結合する方法としては、「捩り結合子で結合する方法」(同一三四頁右欄本文八行)が評価されているが、「振動の節を外して縦振動結合子や屈曲振動結合子で結合する構成法もある。」(同右欄本文九行、一〇行)と記載されているから、少なくともこれらにより、前記認定の周波数帯域の電気機械フイルタとして、屈曲振動子を縦結合子で結合したものを用いる技術的思想自体は具体的に開示されているというべく、その構成法について、「これらは振動子の振動姿態に大きな影響があるため望ましくない。」とする甲第一二号証の二(同右欄本文一〇行、一一行)の記載は、右認定を左右するものではない。

(三) そうすると、結局、本願発明における「前変調によつて作動する装置に使用されるフイルタとして、屈曲振動子と縦結合子を使用した電気機械フイルタを使用し、その周波数帯域を基本群の下側に定めた」との技術的思想は、第一引用例、第三引用例に開示されているといえるから、この点に関する原告の主張は理由がない。

2 原告の主張2について

原告は、本願発明におけるB電気部品である電気機械フイルタの具体的構成は、各引用例に開示されていないと主張する。

そこで、前掲甲第二号証の一・二、第五号証、第七号証、第一二号証の一ないし三、第一三号証に、成立に争いのない甲第九号証の一ないし三(第四引用例)、第一一号証(第二引用例)を併せ検討すると、つぎのとおり認められる。

すなわち、第四引用例には、「機械濾波器の分類」として、たわみ振動共振子(屈曲振動子)を細い線状の縦振動結合子で結合した構造の電気機械フイルタ(甲第九号証の二の四四頁第一表(A)、(B)欄、第一図(1)、(2)欄)が例示されており、かかる縦振動結合子が長手方向に見て均一な横断面を有することは、その動作目的、構造上からみて、普通のことに過ぎない。

また、第四引用例には、その「(3)縦結合形」の項として、「結合点(屈曲振動子と縦結合子との結合点)が屈曲振動子の自由端部にある場合、比帯域が最大となる。」旨の記載(同四九頁右欄七行、八行)があるから、縦結合子を屈曲振動子の自由端(すなわち、屈曲振動子の振動方向にある面において、屈曲振動に関して生ずる最大振動の範囲)で屈曲振動子に固定することが開示されているということができる。なお、原告は、本願発明における「結合線」と第四引用例の「細棒」(同四九頁左欄一二行)とは等価ではないと主張するが、本願発明の特許請求の範囲にはいうまでもなく、その明細書全体をみても、結合線のスチフネスの値等について具体的に規定するところがないし、他にその主張の根拠も見当らないので、本願発明の「結合線」と第四引用例の「細棒」とを異質のものとすることはできない。

また、第一引用例(甲第一二号証の二の三八八頁右欄九行、一〇行「振動の節を外して縦振動結合子や屈曲振動結合子で結合する構成法もある。」との記載)及び第二引用例(甲第一一号証二頁末尾の図面の記載)にも、前記第四引用例の開示と同様な電気機械フイルタの構成が示されている。

そうすると、本願発明におけるB電気部品の具体的構成は、第一、第二、第四引用例に示されているというべく、この点に関する原告の主張は理由がない。

3 原告の主張3について

原告は、A伝送装置にB電気部品を適用したことの格別な技術的意義として、作用効果の顕著さを主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、A伝送装置に、屈曲振動子と縦結合子を使用した電気機械フイルタを適用することは、第三引用例、第一引用例によつて示され、B電気部品の具体的構成についても第四引用例に示されているから、A伝送装置にB電気部品を適用することは、各引用例の示すところにより十分示唆されているということができる。

そして、前掲甲第一二号証の一ないし三によれば、A伝送装置に相当する周波数分割方式の搬送装置への低周波MFの適用によつて、「狭帯域から比較的広帯域のものまで、選択特性のすぐれた、小形、高安定の各種低周波MFの実用化に成功した。これらの低周波MFは、現在、各種搬送装置に適用され、装置の小形化、高性能化をさらに一歩推進せしめようとしている。」(一三三頁右欄七行ないし一二行)、低周波MFの特長の要約として、「(1)高撰択度特性が得られる。(2)0.1%の狭帯域から約10%の広帯域濾波器が実現される。(3)温度、経年安定度が良い。(4)小形、コンパクトである。(5)………既存のLC濾波器に置き換えて、高性能化、経済化、小形化の目的を達成することができる。」(一四二頁右欄下から二行ないし一四三頁左欄一一行)と記載されているので、かかる低周波MFの利用による原告主張の作用効果は、前掲第一引用例、第三引用例、第四引用例に示された技術内容から十分予期できるものと認められる。したがつて、この点に関する原告の主張も、採用できない。

そうすると、本件審決が本願発明の進歩性についての判断を誤つたものとする原告の主張は、いずれも理由がなく、その取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却するほかはない。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

「前変調部とフイルタを有する搬送波電話装置において、前変調によつて作動する装置に使用されるフイルタの周波数帯域を基本群の下側に定めた搬送周波電話伝送装置」(以下「A伝送装置」という。)において、フイルタとして、「共振子として屈曲振動子を設け、個々の屈曲振動子を少なくとも一個の縦結合子として作用しかつ長手方向に見て均一な横断面を有する細い一体構成の結合線を介して結合し、さらに、その細い一体構成の結合線を、屈曲振動子の振動方向にある面において屈曲振動に関し生ずる最大振動の範囲で屈曲振動子に固定した電気機械フイルタ」(以下「B電気部品」という。)を適用した搬送周波電話伝送装置。

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